ウドンゲの花

 これは直径1ミリのクサカゲロウ科の卵であって植物ではない。原色日本昆虫図鑑下では「・・・これがウドンゲとよばれ、迷信の対象になる」と記してあるが、仏教植物辞典ではクサカゲロウについては全く触れられていない。
 夏の谷中の夜、街灯に集まる昆虫のなかにヨツボシクサカゲロウの姿がある。ウドンゲの花の正体はそのクサカゲロウ生んだ卵なのである。ウドンゲとはそもそもサンスクリット語でウドゥンバラと呼ぶクワ科の植物のことである。和名はフサナリイチジク。クワ科イチジク属の花は実(果のう)の中に出来るので、花が咲かないものと思われてきていた。
 仏教植物辞典ではウドンゲを次の様に記している。「その花域は三千年に一度開くといひ、或は如来下生し、輪王出世せば開くといひ、又花なくして実を結ぶといへり。・・・」とある。大般若波羅蜜多教第百七十一では「人身は無常にして、富貴は夢の如し、諸根欠けずとも正信尚ほ難し。況んや如来に値うて妙法を聞くを得ることは、希有なること優曇花の如しとせざらんや」とある。つまり無い花に例えて仏の出世を説いているのである。実際のウドンゲの実はイチジクの様に赤く、径3センチくらいで数個が房なりとなるらしい。谷中におけるイチジクの仲間はイチジクとイヌビワしかなく、もちろんフサナリイチジクはない。あればきっとクサカゲロウの卵は迷信の対象にならないで済んだはずだ。1987.10.8


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