ゲルの使い方
|
ゲルの使い方は気候によって様々な工夫を凝らしている。暑いときには壁のフェルトをめくって風を通し、寒くなればフェルトを重ねて乗せ、雨の季節には防水の布を被せる。また季節によって住む場所を変えるので遊牧民たちは、何ら自然に逆らうことなく服を着こなす感覚でゲルで暮らしている。 朝起きると天窓を開けて外してあった煙突を取り付ける。天窓の開閉はウルフという布で行ない、ウルフの一角が天窓におおい被さるようにしてかけてある。他の三隅は固定してめくれないようにしてあるから天窓を開ける時はおおってある一角の紐を操作してめくり、ガトルホシュルン(外側の紐)に結んでおく。このウルフを操作する紐をウルフニィオーソル(ウルフの紐)と呼んでいる。ウルフは明るさを調節するだけでなく室内の温度調節としても使用する。 冬は室温を保つため天窓を少しだけ開けるので室内は暗い。また赤ちやんがいる時には、よく眠れるように室内を暗くする。普通天窓は朝起きてから眠るときまで閉めることはない。冬は一晩中ストーブの火を保っているので煙突は取り付けたままであるが、ウルフが焦げつかないように少し隙間をあけて閉める。 冬のモンゴルは氷点下40℃にもなり、ストーブだけでは底冷えする。そこでカーペットの下に羊の糞を敷いて保温に努める。 夏はゲルに風を入れるために壁のフェルトをめくり上げておく。壁のフェルトをめくって風を通すには、天窓を開じて横風を通るようにする。この状態のゲルをハヤーショホ( すそをめくる)と呼んでいる。 雨が降るとすぐにウルフを被せて天窓を閉める。今では防水性のベルチュヒンブレスを屋根にかぶせているので雨漏れはしていないが、ちょっと昔は四、五時間もすれば雨漏りが起こった。またゲルの淵にブサリンソワクと呼ばれる水路を作って水を流すようにする地域がうある。 内側と外側のブレスは最近になって使われ始めたものである。ゲル内はカーテンや壁で仕切るようなことはせず、家族が共同で使えるよう一つの部屋として使っている。ただしベッドだけばハンニィホシュク(ベッドのカーテン)で囲む。ゲルで生活している遊牧民にもプライバシーを守りたいときがある。たとえば病人がいたり、乳幼兄がいるようなときなどは、扉の手前を囲むように紐で線をひいて遠慮してもらうよう工夫している人もいる。 またゲルは住居用に用いるのが一般的とされているが、羊や山羊の仔が生まれた時には、一つを家畜用に使ったり、または食料や道具類を保管するための倉庫として使う場合もある。 かつてゲルのなかで最も大切なものは中央正面にある仏壇であったが、現在では、ゴルチャクタク(中央の紐)という天窓の中心からぶら下がっている紐である。しかし一九九○年から宗教活動が公に認められるようになったため、再び仏壇が置かれるようになってきた。 ゴルチャクタクはその家庭にヒーモル(直訳で風の馬・意味は開運)をもたらすと言われ、どのゲルを訪ねても大切にされており、家内安全と幸福の願いが込められている。モンゴルではツキのある人のことをヒーモルを持っている人などという言い方をする場合がある。この紐は普段大切にしまっておくため、紐でウルジィ(模様・マーク)を描いてオニー(屋根棒)の間にはさむ。よく捕かれるウルジィに龍などがあり、形をととのえて、とても丁重に扱われている。 また強風からゲルを守るためにもゴルチャクタクを使ったりするのだが、これは風が強い日にゴルチャクタクの先端に杭や石の重しを付けて垂らすことで強風にあおられるゲルの重心が下へと安定するというわけなのだ。実際に四月から五月にかけての強風により、ゲルが飛ばされてしまうことがあるそうだ。 さらに強い風が年に一〜二度吹くことがあり、そのときは皮の紐でゲルの屋根に二重三重とかけて二○キロくらいの石を結んでおく。またどんなに強い風が吹いても杭を使ったり、ゲルを地面に埋め込むことはしない。 長時間、ゲルを建てていると屋根棒や天窓がよじれ、柱が傾いてくる。そうしたときは、天窓を四方から引っ張ってある紐を結び直してよじれを無くす。 |