谷中霊園近くの寺院境内に沙羅双樹という樹がある。谷中で植物名が石柱に刻まれているのはここだけだろう。仏教植物辞典によると「仏の臥し給へる四辺に一双づつ八本沙羅双樹あり、仏入滅せられんとするやその樹悲しみて、一双の各一本は枯色を現し、一本は生色を保てりといふ。これを四枯四栄・・・」とある。つまり仏入滅の際、悲みのあまり双樹の一方の木だけが枯れ、もう一方は生きたというのである。真か不思議な出来事だが、沙羅双樹にまつわる有名な話である。仏教の聖木である沙羅樹とは学名Shorea robusta, Gaertn. 熱帯ヒマラヤに分布するフタバガキ科の植物で、和名もサラソウジュとなっている。谷中で熱帯ヒマラヤの植物が育つとは思えないが、こうして谷中の台地で仏教の聖木に触れられるというのもいいものである。1992.5.2